木下夕爾俳句集1
春
水ぐるまひかりやまずよ蕗の薹
春昼のすぐに鳴りやむオルゴール
花冷の包丁獣脂もて曇る
春暁の大時計鳴りをはりたる
あくびしていでし泪や啄木忌
花蕎麦に雲多き日のつづきけり
つくねんと木馬よ春の星ともり
家々や菜の花いろの燈をともし
水ぐるまひかりやまずよ蕗の薹
春昼のすぐに鳴りやむオルゴール
花冷の包丁獣脂もて曇る
春暁の大時計鳴りをはりたる
あくびしていでし泪や啄木忌
花蕎麦に雲多き日のつづきけり
つくねんと木馬よ春の星ともり
家々や菜の花いろの燈をともし
木下夕爾俳句集2
夏
地球儀のあをきひかりの五月来ぬ
こころふとかよへり風の青すだれ
遠雷やはづしてひかる耳かざり
炎天や昆虫としてただあゆむ
海の音にひまはり黒き瞳をひらく
かたつむり日月遠くねむるなり
兜虫漆黒の夜を率てきたる
泉のごとくよき詩をわれに湧かしめよ
地球儀のあをきひかりの五月来ぬ
こころふとかよへり風の青すだれ
遠雷やはづしてひかる耳かざり
炎天や昆虫としてただあゆむ
海の音にひまはり黒き瞳をひらく
かたつむり日月遠くねむるなり
兜虫漆黒の夜を率てきたる
泉のごとくよき詩をわれに湧かしめよ
木下夕爾俳句集3
秋
稲妻や夜も語りゐる葦と沼
海鳴りのはるけき芒折りにけり
地球儀のうしろの夜の秋の闇
てのひらにうけて全き熟柿かな
ふりむいてまだ海見ゆる展墓かな
にせものときまりし壺の夜長かな
噴水にひろごりやまず鰯雲
稲妻や夜も語りゐる葦と沼
海鳴りのはるけき芒折りにけり
地球儀のうしろの夜の秋の闇
てのひらにうけて全き熟柿かな
ふりむいてまだ海見ゆる展墓かな
にせものときまりし壺の夜長かな
噴水にひろごりやまず鰯雲
夏目漱石俳句集1
東風(こち)吹くや山一ぱいの雲の影
名月や故郷遠き影法師
叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉
居合抜けば燕ひらりと身をかはす
海見えて行けども行けども菜畑哉
落つるなり天に向かつて揚雲雀
端然と恋をしてゐる雛(ひいな)かな
永き日や欠伸うつして分れ行く
影法師月に並んで静かなり
凩(こがらし)や海に夕日を吹き落す
名月や故郷遠き影法師
叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉
居合抜けば燕ひらりと身をかはす
海見えて行けども行けども菜畑哉
落つるなり天に向かつて揚雲雀
端然と恋をしてゐる雛(ひいな)かな
永き日や欠伸うつして分れ行く
影法師月に並んで静かなり
凩(こがらし)や海に夕日を吹き落す