三橋鷹女集1
向日葵
すみれ摘むさみしき性を知られけり
万燈がゆく花笠がゆく遠太鼓
一つとなりし蟲を放ちにゆきにけり
日本の我はをみなや明治節
夏痩せて嫌ひなものは嫌ひなり
おもて触れなばじりじり焦げんあのカンナ
初嵐して人の機嫌はとれませぬ
煖炉昏し壺の椿を投げ入れよ
煖炉灼く夫よタンゴ踊らうか
あすが来てゐるたんぽぽの花びらに
すみれ摘むさみしき性を知られけり
万燈がゆく花笠がゆく遠太鼓
一つとなりし蟲を放ちにゆきにけり
日本の我はをみなや明治節
夏痩せて嫌ひなものは嫌ひなり
おもて触れなばじりじり焦げんあのカンナ
初嵐して人の機嫌はとれませぬ
煖炉昏し壺の椿を投げ入れよ
煖炉灼く夫よタンゴ踊らうか
あすが来てゐるたんぽぽの花びらに
三橋鷹女集2
風吹くと鹿の子の瞳ものをいふ
二月来るながき眉毛を吾がひけば
みんな夢雪割草が咲いたのね
空漠とてのひらはあり蝌蚪生まれ
ひとつづつ蜂は飛ぶなり日にまみれ
曼珠沙華咲いてまつくれなゐの秋
詩に痩せて二月渚をゆくはわたし
すつぱだかのめんどりとなり凍て吊るされ
漣のひかり凍てつつ鳰棲めり
蛙鳴き麦の秋風吹けば鳴き
二月来るながき眉毛を吾がひけば
みんな夢雪割草が咲いたのね
空漠とてのひらはあり蝌蚪生まれ
ひとつづつ蜂は飛ぶなり日にまみれ
曼珠沙華咲いてまつくれなゐの秋
詩に痩せて二月渚をゆくはわたし
すつぱだかのめんどりとなり凍て吊るされ
漣のひかり凍てつつ鳰棲めり
蛙鳴き麦の秋風吹けば鳴き
三橋鷹女集4
魚の鰭
秋燕の空のはろかに瞳をほそめ
寒木に耳あてて何を聴かうとする
曼珠沙華濡るれば濡るる野の烏
蟲鳴けば兄の墓動くかと思ふ
あす死ぬるいのちかも知らず秋刀魚焼く
遺族ゆくひとりひとりの背に秋日
野にひとり秋の没日は掌に抱かな
秋風や水より淡き魚のひれ
晩秋の想ひ女々しきは言はず
この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉
秋燕の空のはろかに瞳をほそめ
寒木に耳あてて何を聴かうとする
曼珠沙華濡るれば濡るる野の烏
蟲鳴けば兄の墓動くかと思ふ
あす死ぬるいのちかも知らず秋刀魚焼く
遺族ゆくひとりひとりの背に秋日
野にひとり秋の没日は掌に抱かな
秋風や水より淡き魚のひれ
晩秋の想ひ女々しきは言はず
この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉
三橋鷹女集5
まひまひに子を連れてゐる四月かな
吾れに白紙蛾に白壁のしろき夜が
おもふことみなましぐらに二月来ぬ
十本の指ありげんげ摘んでゐる
たにし田の田螺と聴いてゐるひばり
寂しさよ昏れて田螺の吐く水泡
青簾あをしまぼろし来て住める
ものの芽のはや大いなり春の闇
うたたねの唇にある鬼灯かな
葉櫻や豊かに垂れし洗ひ髪
吾れに白紙蛾に白壁のしろき夜が
おもふことみなましぐらに二月来ぬ
十本の指ありげんげ摘んでゐる
たにし田の田螺と聴いてゐるひばり
寂しさよ昏れて田螺の吐く水泡
青簾あをしまぼろし来て住める
ものの芽のはや大いなり春の闇
うたたねの唇にある鬼灯かな
葉櫻や豊かに垂れし洗ひ髪