日野草城俳句集1
花水
きさらぎの藪にひびける早瀬かな
春暁やひとこそ知らね木々の雨
春の夜や檸檬(レモン)に触るる鼻のさき
春の雲ながめてをればうごきけり
研ぎ上げし剃刀(かみそり)にほふ花ぐもり
春の灯や女は持たぬのどぼとけ
ものの種にぎればいのちひしめける
永き日の上枝(ほつえ)の椿落ちにけり
日盛りの土にさびしやおのが影
現(うつ)し世にかなしく覚めし昼寝かな
きさらぎの藪にひびける早瀬かな
春暁やひとこそ知らね木々の雨
春の夜や檸檬(レモン)に触るる鼻のさき
春の雲ながめてをればうごきけり
研ぎ上げし剃刀(かみそり)にほふ花ぐもり
春の灯や女は持たぬのどぼとけ
ものの種にぎればいのちひしめける
永き日の上枝(ほつえ)の椿落ちにけり
日盛りの土にさびしやおのが影
現(うつ)し世にかなしく覚めし昼寝かな
日野草城俳句集3
青芝
ゆふぐれのしづかな雨や水草生ふ
水晶の念珠つめたき大暑かな
ふきわたる草木の風に端居かな
蚊遣火の煙の末をながめけり
山の木のうすゆふばえやほととぎす
しづけさに初蝉のまたきこえけり
笹鳴や水のゆふぐれおのづから
ゆふぐれのしづかな雨や水草生ふ
水晶の念珠つめたき大暑かな
ふきわたる草木の風に端居かな
蚊遣火の煙の末をながめけり
山の木のうすゆふばえやほととぎす
しづけさに初蝉のまたきこえけり
笹鳴や水のゆふぐれおのづから
日野草城俳句集4
昨日の花
暮れそめてにはかに暮れぬ梅林
吹き落ちて松風さはる牡丹の芽
春の蚊のひとたび過ぎし眉の上
をさなごのひとさしゆびにかかる虹
かいつぶりさびしくなればくぐりけり
寒燈や陶は磁よりもあたたかく
みづみづしセロリを噛めば夏匂ふ
七月のつめたきスウプ澄み透り
伊勢えびにしろがねの刃のすずしさよ
暮れそめてにはかに暮れぬ梅林
吹き落ちて松風さはる牡丹の芽
春の蚊のひとたび過ぎし眉の上
をさなごのひとさしゆびにかかる虹
かいつぶりさびしくなればくぐりけり
寒燈や陶は磁よりもあたたかく
みづみづしセロリを噛めば夏匂ふ
七月のつめたきスウプ澄み透り
伊勢えびにしろがねの刃のすずしさよ
日野草城俳句集5
轉轍手 他
走り出て土を芝生を蹠(あなうら)に
新鮮な夕刊を買ふ風の中
日暮れ
木の股に居てかんがへてゐるとかげ
樹も草もしづかにて梅雨はじまりぬ
炎天に黒き喪章の蝶とべり
闇にして地の刻移るちちろ蟲
てのひらに載りし林檎の値を言はる
ゆるやかに炎暑の琴の音の粒
走り出て土を芝生を蹠(あなうら)に
新鮮な夕刊を買ふ風の中
日暮れ
木の股に居てかんがへてゐるとかげ
樹も草もしづかにて梅雨はじまりぬ
炎天に黒き喪章の蝶とべり
闇にして地の刻移るちちろ蟲
てのひらに載りし林檎の値を言はる
ゆるやかに炎暑の琴の音の粒