富田木歩俳句集1
背負はれて名月排す垣の外
松ケ根の雪踏み去(い)ぬる礼者かな
荒壁に虻(あぶ)狂ひをる西日かな
火蛾の輪にランプと我とじつとあり
机見入れば木目波立つ夜寒かな
秋風や軒につるせし糸車
むかれたる棕櫚の木肌や秋の風
砂利のごと蜆とぎをる夕時雨
人形屑掃き下ろす庭の草いきれ
菓子買はぬ子のはぢらひや簾影
松ケ根の雪踏み去(い)ぬる礼者かな
荒壁に虻(あぶ)狂ひをる西日かな
火蛾の輪にランプと我とじつとあり
机見入れば木目波立つ夜寒かな
秋風や軒につるせし糸車
むかれたる棕櫚の木肌や秋の風
砂利のごと蜆とぎをる夕時雨
人形屑掃き下ろす庭の草いきれ
菓子買はぬ子のはぢらひや簾影
富田木歩俳句集2
夜寒さや吹けば居すくむ油虫
居眠りもせよせよ妹の夜寒顔
うそ寒や畳にをどる影法師
病臥
我が肩に蜘蛛の糸張る秋の暮
頭上渡る椋鳥(むく)の大群光りけり
己が影を踏みもどる児よ夕蜻蛉
お針子の膝まで日ざす寒椿
門松にひそと子遊ぶ町の月
鉢木ふと息づくけはひ暖かき
干潮に犬遊び居る蘆の角
居眠りもせよせよ妹の夜寒顔
うそ寒や畳にをどる影法師
病臥
我が肩に蜘蛛の糸張る秋の暮
頭上渡る椋鳥(むく)の大群光りけり
己が影を踏みもどる児よ夕蜻蛉
お針子の膝まで日ざす寒椿
門松にひそと子遊ぶ町の月
鉢木ふと息づくけはひ暖かき
干潮に犬遊び居る蘆の角
富田木歩俳句集3
病妹
寝る妹に衣(きぬ)うちかけぬ花あやめ
かそけくも咽喉鳴る妹よ鳳仙花
涙湧く眼を追ひ移す朝顔に
妹の棺を送る
明けはずむ樹下に母立ち尽したり
麻だすきして昼寝子よ秋祭
体内にこの風が吹く冴返り
秋風や街呼び歩りく梯子売
夢に見れば死もなつかしや冬木風
籠の虫の声洩れ来るや娼家の灯
面影の囚はれ人に似て寒し
寝る妹に衣(きぬ)うちかけぬ花あやめ
かそけくも咽喉鳴る妹よ鳳仙花
涙湧く眼を追ひ移す朝顔に
妹の棺を送る
明けはずむ樹下に母立ち尽したり
麻だすきして昼寝子よ秋祭
体内にこの風が吹く冴返り
秋風や街呼び歩りく梯子売
夢に見れば死もなつかしや冬木風
籠の虫の声洩れ来るや娼家の灯
面影の囚はれ人に似て寒し
富田木歩俳句集4
ぬかるみのいつか青める春日かな
秋風の背戸からからと昼餉かな
少年が犬に笛聴かせをる月夜
ひとりゐて壁に冴ゆるや昼の影
遠火事の雲にうつれり風の宵
籠の鶏に子の呉れてゆくはこべかな
石蹴りつゝ行く子の寒きそぶりかな
顧りみす冬木に浅きなごりかな
秋風の背戸からからと昼餉かな
少年が犬に笛聴かせをる月夜
ひとりゐて壁に冴ゆるや昼の影
遠火事の雲にうつれり風の宵
籠の鶏に子の呉れてゆくはこべかな
石蹴りつゝ行く子の寒きそぶりかな
顧りみす冬木に浅きなごりかな