<> 「たのしみは 春夏秋冬季語に逢ひ 詩歌管絃游びゐるとき」 @歌童 杉田久女

杉田久女俳句集1

 堺町

春寒や刻み鋭き小菊の芽

春暁の夢のあと追ふ長まつげ

東風吹くや耳現はるるうなゐ髪

鬢(びん)かくや春眠さめし眉重く

嫁菜摘むうしろの汽笛かへり見ず


芥子蒔くや風に乾きし洗ひ髪

花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ

晴天に苞(ほう)押しひらく木の芽かな

日盛りの塗下駄ぬげば曇りかな

玄海に連なる漁火や窓涼み

杉田久女俳句集2

こがね虫葉かげを歩む風雨かな

よそに鳴る夜長の時計数へけり

虫なくや帯に手さして倚(よ)り柱

朝顔や濁り初めたる市の空

白萩の雨をこぼして束ねけり


葉鶏頭のいただき躍る驟雨かな

浅間曇れば小諸は雨よ蕎麦の花

知らぬ人と黙し拾へる木の実かな

日面に揺れて雪解の朱欒(ざぼん)かな

わが歩む落葉の音のあるばかり

杉田久女俳句集3

足袋つぐやノラともならず教師妻

風邪の子や眉にのび来しひたひ髪

牡蠣舟に上げ潮暗く流れけり

けふの糧に幸足る汝や寒雀

紫陽花に秋冷いたる信濃かな


行水や肌に粟立つ黍の風

筑紫野ははこべ花咲く睦月かな

杉田久女俳句集4

 花衣

春潮に流るる藻あり矢の如く

ぬかづけばわれも善女や仏生会

身の上の相似て親し桜貝

防人の妻恋ふ歌や磯菜摘む

晴天に芽ぐみ来し枝をふれあへる


蒼海の波騒ぐ日や丘椿

花影あびて群衆遅々とうごくかな

河鹿きく我衣手の露しめり

板の如き帯にさゝれぬ秋扇

月涼しいそしみ綴る蜘蛛の糸

杉田久女俳句集5

谺して山ほととぎすほしいまゝ

朱欒(ざぼん)咲く五月となれば日の光り

南国の五月は楽し花朱欒

常夏の碧き潮あびわがそだつ

栴檀の花散る那覇に入学す


砂糖黍かぢりし頃の童女(うなゐ)髪

風に落つ楊貴妃桜房のまゝ

月高し遠の稲城はうす霧らひ

嫁菜つみ夕づく馬車を待たせつゝ

一人強し夜の茅の輪をくぐるわれ

歌童サイト内 検索フォーム
カテゴリ
カテゴリ別記事一覧
株主優待券