<> 「たのしみは 春夏秋冬季語に逢ひ 詩歌管絃游びゐるとき」 @歌童 尾崎放哉

放哉俳句集1

一日物云はず蝶の影さす

たつた一人になりきつて夕空

蛇が殺されて居る炎天をまたいで通る

わかれを云ひて幌おろす白いゆびさき

夕べひよいと出た一本足の雀よ


障子しめきつて淋しさをみたす

寒さころがる落葉が水ぎはでとまつた

大空のました帽子かぶらず

馬の大きな足が折りたたまれた

心をまとめる鉛筆とがらす

放哉俳句集2

わがからだ焚火にうらおもてあぶる

こんなよい月を一人で見て寝る

わが顔ぶらさげてあやまりにゆく

蟻が出ぬようになつた蟻の穴

片目の人に見つめられて居た


雀のあたたかさ握るはなしてやる

大雪となる兎の赤い眼玉である

水車まはつて居る山路にかかる

犬よちぎれるほど尾をふつてくれる

なぎさふりかへる我が足跡も無く

放哉俳句集3

沈黙の池に亀一つ浮きがる

鐘ついて去る鐘の余韻の中

たばこが消えて居る淋しさをなげすてる

木魚ほんほんたたかれまるう暮れて居る

土運ぶ黙々とひかげをつくる


何か求むる心海へ放つ

仏体にほられて石ありけり

足音一つ来る子供の足音

ただ風ばかり吹く日の雑念

淋しいぞ一人五本のゆびを開いて見る

放哉俳句集4

落葉掃けばころころ木の実

鞠がはずんで見えなくなつて暮れてしまつた

ふところの焼芋のあたたかさである

霰(あられ)ふりやむ大地のでこぼこ

なんにもない机の引き出しをあけて見る


淋しいからだから爪がのび出す

ころりと横になる今日が終つて居る

昼寝の足のうらが見えてゐる訪(おとな)ふ

道を教へてくれる煙管から煙が出てゐる

畳を歩く雀の足音を知って居る

放哉俳句集5

入れものが無い両手で受ける

咳をしても一人

月夜の葦が折れとる

墓のうらに廻る

窓あけた笑ひ顔だ


枯枝ほきほき折るによし

肉がやせて来る太い骨である

春の山のうしろから煙が出だした

とんぼが淋しい机にとまりに来てくれた

すばらしい乳房だ蚊が居る

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