高濱虚子俳句集1
風が吹く佛来給ふけはひあり
怒濤巖を嚙む我を神かと朧の夜
山門も伽藍も花の雲の上
穴を出る蛇を見て居る鴉かな
蓑蟲の父よと鳴きて母もなし
遠山に日の当りたる枯野かな
或時は谷深く折る夏花かな
桐一葉日当りながら落ちにけり
煮ゆる時蕪汁とぞ匂ひける
金亀子擲つ闇の深さかな
怒濤巖を嚙む我を神かと朧の夜
山門も伽藍も花の雲の上
穴を出る蛇を見て居る鴉かな
蓑蟲の父よと鳴きて母もなし
遠山に日の当りたる枯野かな
或時は谷深く折る夏花かな
桐一葉日当りながら落ちにけり
煮ゆる時蕪汁とぞ匂ひける
金亀子擲つ闇の深さかな
高濱虚子俳句集2
凡そ天下に去来程の小さき墓に参りけり
霜降れば霜を楯とす法の城
春風や闘志いだきて丘に立つ
提灯に落花の風の見ゆるかな
年を以て巨人としたり歩み去る
鎌倉を驚かしたる余寒あり
濡縁に雨の後なる一葉かな
葡萄の種吐き出して事を決しけり
露の幹静に蟬の歩き居り
大空に又わき出でし小鳥かな
霜降れば霜を楯とす法の城
春風や闘志いだきて丘に立つ
提灯に落花の風の見ゆるかな
年を以て巨人としたり歩み去る
鎌倉を驚かしたる余寒あり
濡縁に雨の後なる一葉かな
葡萄の種吐き出して事を決しけり
露の幹静に蟬の歩き居り
大空に又わき出でし小鳥かな
高濱虚子俳句集3
木曽川の今こそ光れ渡り鳥
闇汁の杓子を逃げしものや何
蛇逃げて我を見し眼の草に残る
簗見廻つて口笛吹くや高嶺晴
船にのせて湖をわたしたる牡丹かな
秋天の下に野菊の花瓣欠く
どかと解く夏帯に句を書けとこそ
早苗籠負うて走りぬ雨の中
晩涼に池の萍皆動く
月浴びて玉崩れをる噴井かな
闇汁の杓子を逃げしものや何
蛇逃げて我を見し眼の草に残る
簗見廻つて口笛吹くや高嶺晴
船にのせて湖をわたしたる牡丹かな
秋天の下に野菊の花瓣欠く
どかと解く夏帯に句を書けとこそ
早苗籠負うて走りぬ雨の中
晩涼に池の萍皆動く
月浴びて玉崩れをる噴井かな
高濱虚子俳句集4
水鳥の夜半の羽音やあまたたび
白牡丹といふといへども紅ほのか
競べ馬一騎遊びてはじまらず
橋裏を皆打仰ぐ涼舟
巣の中に蜂のかぶとの動く見ゆ
濃き日影ひいて遊べる蜥蜴かな
やり羽子や油のやうな京言葉
ふみはずす蝗の顔の見ゆるかな
流れ行く大根の葉の早さかな
夕立や森を出て来る馬車一つ
白牡丹といふといへども紅ほのか
競べ馬一騎遊びてはじまらず
橋裏を皆打仰ぐ涼舟
巣の中に蜂のかぶとの動く見ゆ
濃き日影ひいて遊べる蜥蜴かな
やり羽子や油のやうな京言葉
ふみはずす蝗の顔の見ゆるかな
流れ行く大根の葉の早さかな
夕立や森を出て来る馬車一つ
高濱虚子俳句集5
石ころも露けきものの一つかな
栞して山家集あり西行忌
蜘蛛打つて暫く心静まらず
飛騨の生れ名はとうといふほとゝぎす
火の山の裾に夏帽振る別れ
酒うすしせめては燗を熱うせよ
羽抜鳥身を細うしてかけりけり
風の日の麦踏遂にをらずなりぬ
聾青畝ひとり離れて花下に笑む
春の浜大いなる輪が画いてある
栞して山家集あり西行忌
蜘蛛打つて暫く心静まらず
飛騨の生れ名はとうといふほとゝぎす
火の山の裾に夏帽振る別れ
酒うすしせめては燗を熱うせよ
羽抜鳥身を細うしてかけりけり
風の日の麦踏遂にをらずなりぬ
聾青畝ひとり離れて花下に笑む
春の浜大いなる輪が画いてある