<> 「たのしみは 春夏秋冬季語に逢ひ 詩歌管絃游びゐるとき」 @歌童 大野林火

大野林火俳句集1

 海門

雪晴や町中に山の影感ず

鳴き鳴きて囮は霧につつまれし

霜夜来し髪のしめりの愛(かな)しけれ

本買へば表紙が匂ふ雪の暮

寒夜にて川の奔流あらはなり


あけがたやうすきひかりの蛍籠

ゆふぐれの枯木に独楽をぶつけたり

 長男三歳にて逝く
棺に入るるクリスマスのチヨコレートも

 妻継ぎて逝く
死顔に涙の見ゆる寒さかな

大野林火俳句集2

燈籠にしばらくのこる匂ひかな

いなづまにつめたきかごの野菜かな

空蝉をひろふ流人の墓ほとり

ふと鳴いて白昼やさし野の蛙

子の髪の風に流るる五月来ぬ


足袋はくやうしろ姿を見られつつ

 冬青集
蟲売のうしろの河の秋の風

大野林火俳句集3

 早桃

夕焼へ叱りすぎたる子の手執り

七夕の子の前髪を切りそろふ

店越しに紺青の海梨を買ふ

こくこくと牛乳(ちち)飲む朝を雲灼くる

繭車ゆらと緑蔭をひいて出づ


こがらしの樫をとらへしひびきかな

あをあをと空を残して蝶別れ

嘶(いなな)きてはからだひからせ東風の馬

いちめんの白雲となる春の坂

征くひとに一夜の宴の蛍籠

大野林火俳句集4

野分きし翳をうしろに夜の客

樹の穴へあきかぜの蟻出入りす

月よぎるけむりのごとく雁の列

冬の夜や頭にありありと深海魚

森落葉見つむる木菟の眼やあらむ

大野林火俳句集5

 冬雁

とほるときこどものをりて薔薇の門

蝸牛虹は朱ケのみのこしけり

焼跡にかりがねの空懸りけり

洗ひをる障子の下も藻のなびき

火事明り道のみかんの皮染めぬ


ねむりても旅の花火の胸にひらく

松籟をききもやひゐる浅利舟

耕せば土に初蝶きてとまる

喜劇見て炎天のもの皆歪む

晩涼やさびしきまでに草の丈

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