<> 「たのしみは 春夏秋冬季語に逢ひ 詩歌管絃游びゐるとき」 @歌童 篠原鳳作

篠原鳳作俳句集1

ままごとの子等が忘れしぬかご哉

秋の蝶とぢてはひらく翅しづか

縁先にパナマ編みゐる良夜かな

城内に機音たかき遅日かな

陽炎や砂に坐りて蛇籠あむ


麦笛を馬棚に凭れて吹きにけり

蕗の葉を傾けてゐる蜥蜴哉

燕の巣覗きて菖蒲ふきにけり

一時雨一時雨虹はなやかに

浜木綿に流人の墓の小ささよ

篠原鳳作俳句集2

飴伸ばす如くにハブをしごきける

御食のもの音もなき安居寺

犬とゐて春を惜しめる水夫かな

火の島の裏にまはれば密柑山

雲の峰夜は夜で湧いてをりにけり


豚の仔の遊んでゐるや芭蕉林

村の童の大きな腹や麦の秋

豚小屋に潮のとびくる野分かな

廻りゐる籾すり馬に日静か

受験生かなしき莨おぼえけり

篠原鳳作俳句集3

カヌー皆雲の峯より帰りくる

颱風をよろこぶ子等と籠りゐる

颱風や守宮のまなこ澄める夜を

うたたねや毛糸の玉は足もとに

冬木影解剖(ふわけ)の部屋にさしてゐる


ふるぼけしチェロ一丁の僕の冬

青麦の穂のするどさよ日は白く

太陽を孕みしトマトかくも熟れ

灼け土にしづくたりつつトマト食ぶ

向日葵の照り澄むもとに山羊生るる

篠原鳳作俳句集4

一碧の水平線へ籐寝椅子

浪のりの白き疲れによこたはる

満天の星に旅ゆくマストあり

しんしんと肺碧きまで海のたび

月のかげ塑像の線をながれゐる


月光の重たからずや長き髪

そそぎゐる月の光の音ありや

紺青の空と触れゐて日向ぼこ

莨持つ指の冬陽をたのしめり

廻転椅子くるりくるりと除夜ふくる

篠原鳳作俳句集5

ルンペンのうたげの空に星一つ

鷗愛(は)し海の青さに身を細り

日輪をこぼるる蜂の芥子にあり

大空の一角にして白き部屋よ

海光のつよきに触れて雛鳴けり


雛の眼に海の碧さの映りゐる

月光のこの一点に小さき存在(われ)

氷雨よりさみしき音の血がかよふ

 『老父昇天』より
一握り雪をとりこよ食ぶと言ふ

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