正岡子規俳句集1
寒山落木 巻一
あたゝかな雨がふるなり枯葎(かれむぐら)
ばせを忌
頭巾きて老とよばれん初しぐれ
門しめに出て聞いて居る蛙かな
涼しさや馬も海向く淡井阪
五月雨やけふも上野を見てくらす
我宿の名月芋の露にあり
樵夫(きこり)二人だまつて霧を現はるる
我がなりを見かけて鵯(ひよ)のなくらしき
さらさらと竹に音あり夜の雪
冬川の涸れて蛇籠の寒さ哉
凩(こがらし)や自在に釜のきしる音
あたゝかな雨がふるなり枯葎(かれむぐら)
ばせを忌
頭巾きて老とよばれん初しぐれ
門しめに出て聞いて居る蛙かな
涼しさや馬も海向く淡井阪
五月雨やけふも上野を見てくらす
我宿の名月芋の露にあり
樵夫(きこり)二人だまつて霧を現はるる
我がなりを見かけて鵯(ひよ)のなくらしき
さらさらと竹に音あり夜の雪
冬川の涸れて蛇籠の寒さ哉
凩(こがらし)や自在に釜のきしる音
正岡子規俳句集2
寒山落木 巻二
行燈の油なめけり嫁が君
藪入(やぶいり)や思ひは同じ姉妹
藪入の二人落ちあふ渡し哉
君行かばわれとゞまらば冴返る
母の詞(ことば)自ら句になりて
毎年よ彼岸の入に寒いのは
居酒屋の喧嘩押し出す朧月
故郷やどちらを見ても山笑ふ
鶯の覚束(おぼつか)なくも初音哉
白魚や椀の中にも隅田川
蛤(はまぐり)の荷よりこぼるゝうしほ哉
行燈の油なめけり嫁が君
藪入(やぶいり)や思ひは同じ姉妹
藪入の二人落ちあふ渡し哉
君行かばわれとゞまらば冴返る
母の詞(ことば)自ら句になりて
毎年よ彼岸の入に寒いのは
居酒屋の喧嘩押し出す朧月
故郷やどちらを見ても山笑ふ
鶯の覚束(おぼつか)なくも初音哉
白魚や椀の中にも隅田川
蛤(はまぐり)の荷よりこぼるゝうしほ哉
正岡子規俳句集3
馬の尾の折々動く柳哉
一籠の蜆にまじる根芹哉
萍(うきくさ)や池の真中に生ひ初むる
犬の子の草に寐(い)ねたる熱さ哉
博奕(ばくち)うつ間のほの暗き暑さ哉
海士(あま)が家に干魚の臭ふあつさ哉
日ざかりや海人(あま)が門辺の大碇(いかり)
つり橋に乱れて涼し雨のあし
松嶋の闇を見てゐる涼みかな
夕立や沖は入日の真帆かた帆
一籠の蜆にまじる根芹哉
萍(うきくさ)や池の真中に生ひ初むる
犬の子の草に寐(い)ねたる熱さ哉
博奕(ばくち)うつ間のほの暗き暑さ哉
海士(あま)が家に干魚の臭ふあつさ哉
日ざかりや海人(あま)が門辺の大碇(いかり)
つり橋に乱れて涼し雨のあし
松嶋の闇を見てゐる涼みかな
夕立や沖は入日の真帆かた帆
正岡子規俳句集4
水馬(みずすまし)流れんとして飛び返る
くひながら夏桃売のいそぎけり
花のあとにはや見えそむる胡瓜哉
盆過の村静かなり猿廻し
夕月や京のはづれの辻角力
山畑は笠に雲おく案山子(かがし)哉
天の川高燈籠にかゝりけり
暁の霧しづか也中禅寺
立琴にから鳴絶えぬ野分哉
一寸の草に影ありけふの月
くひながら夏桃売のいそぎけり
花のあとにはや見えそむる胡瓜哉
盆過の村静かなり猿廻し
夕月や京のはづれの辻角力
山畑は笠に雲おく案山子(かがし)哉
天の川高燈籠にかゝりけり
暁の霧しづか也中禅寺
立琴にから鳴絶えぬ野分哉
一寸の草に影ありけふの月
正岡子規俳句集5
鯉はねて月のさゞ波つくりけり
夕陽(せきよう)に馬洗ひけり秋の海
萩の花くねるとなくてうねりけり
縁日へ押し出す菊の車かな
背戸あけて家鴨(あひる)よびこむしぐれ哉
犬吠て里遠からず冬木立
夕月に大根洗ふ流れかな
夕陽(せきよう)に馬洗ひけり秋の海
萩の花くねるとなくてうねりけり
縁日へ押し出す菊の車かな
背戸あけて家鴨(あひる)よびこむしぐれ哉
犬吠て里遠からず冬木立
夕月に大根洗ふ流れかな