蕉風1
山口素堂
春もはや山吹白く苣(ちさ)にがし
目には青葉山ほとゝぎすはつ松魚(がつお)
あはれさや時雨るゝ頃の山家集
寶井其角
日の春をさすがに鶴の歩み哉
鐘ひとつ賣れぬ日はなし江戸の春
鶯の身を逆(さかさま)にはつねかな
越後屋にきぬさく音や更衣
名月や疊のうへに松の影
聲かれて猿の齒しろし峰の月
稲づまやきのふは東けふは西
あまがへる芭蕉にのりてそよぎけり
服部嵐雪
ぬれ櫞(えん)や薺(なづな)こぼるゝ土ながら
竹の子や兒(ちご)の齒ぐきのうつくしき
文もなく口上もなし粽五把
さみだれや蚯蚓の徹す鍋のそこ
角力とり並ぶや秋のから錦
名月や烟這ゆく水のうへ
はぜ釣や水村山廓(さんくわく)酒旗ノ風
凩の吹ゆくうしろすがたかな
ふとん着て寐たる姿や東山
むめ一輪一りんほどのあたゝかさ
春もはや山吹白く苣(ちさ)にがし
目には青葉山ほとゝぎすはつ松魚(がつお)
あはれさや時雨るゝ頃の山家集
寶井其角
日の春をさすがに鶴の歩み哉
鐘ひとつ賣れぬ日はなし江戸の春
鶯の身を逆(さかさま)にはつねかな
越後屋にきぬさく音や更衣
名月や疊のうへに松の影
聲かれて猿の齒しろし峰の月
稲づまやきのふは東けふは西
あまがへる芭蕉にのりてそよぎけり
服部嵐雪
ぬれ櫞(えん)や薺(なづな)こぼるゝ土ながら
竹の子や兒(ちご)の齒ぐきのうつくしき
文もなく口上もなし粽五把
さみだれや蚯蚓の徹す鍋のそこ
角力とり並ぶや秋のから錦
名月や烟這ゆく水のうへ
はぜ釣や水村山廓(さんくわく)酒旗ノ風
凩の吹ゆくうしろすがたかな
ふとん着て寐たる姿や東山
むめ一輪一りんほどのあたゝかさ
蕉風2
向井去来
うごくとも見えで畑うつ男かな
うの花の絶間たゝかん闇の門
岩端や爰(ここ)にもひとり月の客
猪の寐にゆく方や明の月
あき風やしら木の弓に弦はらん
鳶の羽もかいつくろひぬ初しぐれ
應々といへどたゝくや雪の門(かど)
尾頭の心もとなき海鼠かな
内藤丈草
大原や蝶の出てまふ朧月
時鳥啼や湖水のさゝ濁り
白雨(ゆふだち)にはしり下るや竹の蟻
幾人かしぐれかけぬく勢田の橋
水底の岩に落ちつく木の葉かな
淋しさの底ぬけて降るみぞれかな
水底を見て來た顔の小鴨哉
鷹の目の枯野に居(すわ)るあらしかな
杉山杉風
馬の頬押しのけつむや菫草
ふり上ぐる鍬の光や春の野ら
すつと來て袖に入りたる蛍かな
うごくとも見えで畑うつ男かな
うの花の絶間たゝかん闇の門
岩端や爰(ここ)にもひとり月の客
猪の寐にゆく方や明の月
あき風やしら木の弓に弦はらん
鳶の羽もかいつくろひぬ初しぐれ
應々といへどたゝくや雪の門(かど)
尾頭の心もとなき海鼠かな
内藤丈草
大原や蝶の出てまふ朧月
時鳥啼や湖水のさゝ濁り
白雨(ゆふだち)にはしり下るや竹の蟻
幾人かしぐれかけぬく勢田の橋
水底の岩に落ちつく木の葉かな
淋しさの底ぬけて降るみぞれかな
水底を見て來た顔の小鴨哉
鷹の目の枯野に居(すわ)るあらしかな
杉山杉風
馬の頬押しのけつむや菫草
ふり上ぐる鍬の光や春の野ら
すつと來て袖に入りたる蛍かな
蕉風3
河合曾良
剃り捨てて黒髪山に更衣
かさねとは八重撫子の名成べし
卯の花をかざしに関の晴着かな
終宵(よもすがら)秋風聞くやうらの山
斎部路通
ぼのくぼに雁落かゝる霜夜かな
鳥共も寐入てゐるか余吾の海
いねいねと人にいはれつ年の暮
廣瀬惟然
うめの花赤いは赤いあかいはな
蜻蛉や日は入りながら鳰のうみ
更け行くや水田のうへの天の川
水鳥やむかふの岸へつういつい
立花北枝
橋桁や日はさしながらゆふがすみ
さびしさや一尺消えてゆくほたる
夕立の跡柚の薫る日陰哉
川音や木槿さく戸はまだ起きず
剃り捨てて黒髪山に更衣
かさねとは八重撫子の名成べし
卯の花をかざしに関の晴着かな
終宵(よもすがら)秋風聞くやうらの山
斎部路通
ぼのくぼに雁落かゝる霜夜かな
鳥共も寐入てゐるか余吾の海
いねいねと人にいはれつ年の暮
廣瀬惟然
うめの花赤いは赤いあかいはな
蜻蛉や日は入りながら鳰のうみ
更け行くや水田のうへの天の川
水鳥やむかふの岸へつういつい
立花北枝
橋桁や日はさしながらゆふがすみ
さびしさや一尺消えてゆくほたる
夕立の跡柚の薫る日陰哉
川音や木槿さく戸はまだ起きず
蕉風4
野澤凡兆
灰捨てて白梅うるむ垣根かな
野馬(かげろふ)に子供あそばす狐哉
鷲の巣の樟(くす)の枯枝に日は入りぬ
はなちるや伽藍に樞(くるる)おとし行く
市中(まちなか)は物のひほひや夏の月
物の音ひとりたふる々案山子哉
灰汁桶(あくおけ)の雫やみけりきりぎりす
時雨る々や黒木つむ屋の窓あかり
下京や雪つむ上の夜の雨
ながながと川一筋や雪の原
各務支考
苗しろを見て居る森の烏哉
馬の耳すぼめて寒し梨の花
梢まで来て居る秋の暑さ哉
志太野坡
行く雲を寝て居て見るや夏座敷
山伏の火をきりこぼす花野かな
静かさや梅の苔吸ふあきの蜂
灰捨てて白梅うるむ垣根かな
野馬(かげろふ)に子供あそばす狐哉
鷲の巣の樟(くす)の枯枝に日は入りぬ
はなちるや伽藍に樞(くるる)おとし行く
市中(まちなか)は物のひほひや夏の月
物の音ひとりたふる々案山子哉
灰汁桶(あくおけ)の雫やみけりきりぎりす
時雨る々や黒木つむ屋の窓あかり
下京や雪つむ上の夜の雨
ながながと川一筋や雪の原
各務支考
苗しろを見て居る森の烏哉
馬の耳すぼめて寒し梨の花
梢まで来て居る秋の暑さ哉
志太野坡
行く雲を寝て居て見るや夏座敷
山伏の火をきりこぼす花野かな
静かさや梅の苔吸ふあきの蜂
蕉風5
服部土芳
かげろふやほろほろ落つる岸の砂
むめちるや絲の光の日の匂ひ
梧の葉に光廣げる蛍かな
さびしさの何處まで廣く秋のくれ
棹鹿のかさなり臥せる枯野かな
森川許六
苗代の水にちりうくさくらかな
なの花の中に城あり郡山
卯の花に蘆毛の馬の夜あけ哉
十団子(とをだご)も小粒になりぬ秋の風
新わらの屋根の雫や初しぐれ
岩田涼菟
凩の一日吹いて居りにけり
かげろふやほろほろ落つる岸の砂
むめちるや絲の光の日の匂ひ
梧の葉に光廣げる蛍かな
さびしさの何處まで廣く秋のくれ
棹鹿のかさなり臥せる枯野かな
森川許六
苗代の水にちりうくさくらかな
なの花の中に城あり郡山
卯の花に蘆毛の馬の夜あけ哉
十団子(とをだご)も小粒になりぬ秋の風
新わらの屋根の雫や初しぐれ
岩田涼菟
凩の一日吹いて居りにけり