夏目漱石俳句集1
東風(こち)吹くや山一ぱいの雲の影
名月や故郷遠き影法師
叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉
居合抜けば燕ひらりと身をかはす
海見えて行けども行けども菜畑哉
落つるなり天に向かつて揚雲雀
端然と恋をしてゐる雛(ひいな)かな
永き日や欠伸うつして分れ行く
影法師月に並んで静かなり
凩(こがらし)や海に夕日を吹き落す
名月や故郷遠き影法師
叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉
居合抜けば燕ひらりと身をかはす
海見えて行けども行けども菜畑哉
落つるなり天に向かつて揚雲雀
端然と恋をしてゐる雛(ひいな)かな
永き日や欠伸うつして分れ行く
影法師月に並んで静かなり
凩(こがらし)や海に夕日を吹き落す
夏目漱石俳句集2
ふるひ寄せて白魚崩れん許りなり
落ちざまに蝱(あぶ)を伏せたる椿かな
ぶつぶつと大(おおい)な田螺(たにし)の不平哉
菫(すみれ)程な小さき人に生れたし
古往今来切つて血の出ぬ海鼠かな
菜の花の遥かに黄なり筑後川
来て見れば長谷は秋風ばかり也
仏性は白き桔梗にこそあらめ
某(それがし)は案山子(かかし)にて候雀どの
何の故に恐縮したる生海鼠(なまこ)哉
落ちざまに蝱(あぶ)を伏せたる椿かな
ぶつぶつと大(おおい)な田螺(たにし)の不平哉
菫(すみれ)程な小さき人に生れたし
古往今来切つて血の出ぬ海鼠かな
菜の花の遥かに黄なり筑後川
来て見れば長谷は秋風ばかり也
仏性は白き桔梗にこそあらめ
某(それがし)は案山子(かかし)にて候雀どの
何の故に恐縮したる生海鼠(なまこ)哉
夏目漱石俳句集3
霧黄なる市(まち)に動くや影法師
恋猫の眼(まなこ)ばかりに痩せにけり
花落チテ砕ケシ影ト流レケリ
吾影の吹かれて長き枯野哉
南天に寸の重みや春の雪
どつしりと尻を据えたる南瓜(かぼちや)かな
風に聞け何れか先に散る木の葉
涼しさや石握り見る掌(たなごころ)
草山に馬放ちけり秋の空
秋の川眞白な石を拾ひけり
恋猫の眼(まなこ)ばかりに痩せにけり
花落チテ砕ケシ影ト流レケリ
吾影の吹かれて長き枯野哉
南天に寸の重みや春の雪
どつしりと尻を据えたる南瓜(かぼちや)かな
風に聞け何れか先に散る木の葉
涼しさや石握り見る掌(たなごころ)
草山に馬放ちけり秋の空
秋の川眞白な石を拾ひけり
夏目漱石俳句集4
秋の江に打ち込む杭の響かな
腸(はらわた)に春滴るや粥の味
生きて仰ぐ空の廣さよ赤蜻蛉
肩に来て人懐かしや赤蜻蛉
蟷螂の何を以つてか立腹す
曼珠沙華あつけらかんと道の端
秋風や屠られに行く牛の尻
有るほどの菊抛(な)げ入れよ棺の中
腸(はらわた)に春滴るや粥の味
生きて仰ぐ空の廣さよ赤蜻蛉
肩に来て人懐かしや赤蜻蛉
蟷螂の何を以つてか立腹す
曼珠沙華あつけらかんと道の端
秋風や屠られに行く牛の尻
有るほどの菊抛(な)げ入れよ棺の中