<> 「たのしみは 春夏秋冬季語に逢ひ 詩歌管絃游びゐるとき」 @歌童 飯田蛇笏

飯田蛇笏俳句集1

 山盧集

折りとりてはらりとおもき芒かな

藪の樹や見られて鳴ける秋の蟬

 芥川龍之介氏の長逝を深悼す
たましひのたとへば秋のほたる哉

秋虹をしばらく仰ぐ草刈女

夜明りに渦とけむすぶ鵜川かな


袷人さびしき耳のうしろかな

罌粟の色にうたれし四方のけしき哉

魚喰うて歸燕にうたふ我が子かな

山百合にねむれる馬や靄の中

たましひのしづかにうつる菊見かな

飯田蛇笏俳句集2

山國の虚空日わたる冬至かな

死病得て爪うつくしき火桶かな

竈火赫とたゞ秋風の妻を見る

芋の露連山影を正うす

案山子たつれば群雀空にしづまらず


葬人齒あらはに哭くや曼珠沙華

古き世の火の色うごく野焼かな

夏川や砂さだめなき流れ筋

飯田蛇笏俳句集3

 霊芝

流燈や一つにはかにさかのぼる

出水川とゞろく雲の絶間かな

極寒のちりもとゞめず巖ふすま

死骸(なきがら)や秋風かよふ鼻の穴

一管の笛にもむすぶ飾りかな


わらんべの溺るゝばかり初湯かな

秋たつや川瀬にまじる風の音

採る茄子の手籠にきゆアとなきにけり

日も月もわたりて寒の闇夜かな

われを視る眼の水色に今年猫

飯田蛇笏俳句集4

くろがねの秋の風鈴鳴りにけり

音のして夜風にこぼす零余子かな

切株において全き熟柿かな

寒ゆるむ月面顔を照らすなり

さきがけて蕗咲く渓の谺かな


歩み去りあゆみとゞまる夜の蟹

虹たちて白桃の芽の萌えにけり

山柴を外づす肢かも枝蛙

大揚羽ゆらりと岨の花に酔ふ

鉄塔下茄子朝焼けに咲きそめぬ

飯田蛇笏俳句集5

寒鯉の黒光りして斬られけり

渓下る大揚羽蝶どこまでも

ゆく春の蟹ぞろぞろと子をつれぬ

鼈(すつぽん)をくびきる夏のうす刃かな

秋雞が見てゐる陶の卵かな


 補遺

冬滝のきけば相つぐこだまかな

高浪にかくるる秋のつばめかな

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