原石鼎俳句集1
花影
深吉野篇
頂上や殊に野菊の吹かれ居り
山川に高浪も見し野分かな
鉞(まさかり)に裂く木ねばしや鵙の声
川烏の喧嘩いつ果つ巌寒し
日のさせば巌に猿集(よ)る師走かな
爆竹や瀬々を流るゝ山の影
谷底を一つ歩けり石たゝき
かなしさはひともしごろの雪山家
朴の木に低くとまりぬ青鷹(もろかへり)
銃口(つつぐち)や猪一茎の草による
深吉野篇
頂上や殊に野菊の吹かれ居り
山川に高浪も見し野分かな
鉞(まさかり)に裂く木ねばしや鵙の声
川烏の喧嘩いつ果つ巌寒し
日のさせば巌に猿集(よ)る師走かな
爆竹や瀬々を流るゝ山の影
谷底を一つ歩けり石たゝき
かなしさはひともしごろの雪山家
朴の木に低くとまりぬ青鷹(もろかへり)
銃口(つつぐち)や猪一茎の草による
原石鼎俳句集2
雪峰の月は霰を落しけり
切株に虚空さまよふ枯尾花
谷杉の紺折り畳む霞かな
風呂の戸にせまりて谷の朧かな
高々と蝶こゆる谷の深さかな
花影婆娑と踏むべくありぬ岨の月
虎杖に蜘蛛の網(ゐ)に日の静かなる
山国の暗すさまじや猫の恋
杣が戸の日に影明き木の芽かな
蝶蜂に牡丹まばゆき山家かな
切株に虚空さまよふ枯尾花
谷杉の紺折り畳む霞かな
風呂の戸にせまりて谷の朧かな
高々と蝶こゆる谷の深さかな
花影婆娑と踏むべくありぬ岨の月
虎杖に蜘蛛の網(ゐ)に日の静かなる
山国の暗すさまじや猫の恋
杣が戸の日に影明き木の芽かな
蝶蜂に牡丹まばゆき山家かな
原石鼎俳句集3
ひきかけて大鋸(おが)そのまゝや午寝衆
杣が頬に触るる真葛や雲の峰
初夏や蝶に眼やれば近き山
山の色釣上げし鮎に動くかな
夜振の火見て居る谷の草間かな
提灯を蛍が襲ふ谷を来り
杣が子の摘みあつめゐる曼珠沙華
寺の扉の谷に響くや今朝の秋
淋しさにまた銅羅うつや鹿火屋守
秋の日や猫渡り居る谷の橋
蔓踏んで一山の露動きけり
杣が頬に触るる真葛や雲の峰
初夏や蝶に眼やれば近き山
山の色釣上げし鮎に動くかな
夜振の火見て居る谷の草間かな
提灯を蛍が襲ふ谷を来り
杣が子の摘みあつめゐる曼珠沙華
寺の扉の谷に響くや今朝の秋
淋しさにまた銅羅うつや鹿火屋守
秋の日や猫渡り居る谷の橋
蔓踏んで一山の露動きけり
原石鼎俳句集4
海岸篇
船と船つなげる綱に野分かな
筑紫路はあれちのぎくに野分かな
磯鷲はかならず巖にとまりけり
梅雨暮るゝ潮の底の藻のうごき
秋風や模様の違ふ皿二つ
けさ秋の一帆生みぬ中の海
鰯引き見て居るわれや影法師
蓼嗅いて犬いつ失せし水辺かな
汐木拾へば磯べに冬日したゝれり
船と船つなげる綱に野分かな
筑紫路はあれちのぎくに野分かな
磯鷲はかならず巖にとまりけり
梅雨暮るゝ潮の底の藻のうごき
秋風や模様の違ふ皿二つ
けさ秋の一帆生みぬ中の海
鰯引き見て居るわれや影法師
蓼嗅いて犬いつ失せし水辺かな
汐木拾へば磯べに冬日したゝれり