高野素十俳句集1
初鴉
春水や蛇籠の目より源五郎
歩み来し人麥踏をはじめけり
方丈の大庇(おほびさし)より春の蝶
夜櫻の一枝長き水の上
くもの糸一すぢよぎる百合の前
蟻地獄松風を聞くばかりなり
翅わつててんたう虫の飛びいづる
ひつぱれる糸まつすぐや甲虫
蛇泳ぐ波をひきたる首かな
揚羽蝶おいらん草にぶら下がる
春水や蛇籠の目より源五郎
歩み来し人麥踏をはじめけり
方丈の大庇(おほびさし)より春の蝶
夜櫻の一枝長き水の上
くもの糸一すぢよぎる百合の前
蟻地獄松風を聞くばかりなり
翅わつててんたう虫の飛びいづる
ひつぱれる糸まつすぐや甲虫
蛇泳ぐ波をひきたる首かな
揚羽蝶おいらん草にぶら下がる
高野素十俳句集2
づかづかと來て踊子にささやける
蟷螂やゆらぎながらも萩の上
夕月に甚だ長し馭者の鞭
まつすぐの道に出でけり秋の暮
秋風やくわらんと鳴りし幡(ばん)の鈴
また一人遠くの蘆を刈りはじむ
蘆刈の天を仰いで梳(くしけづ)る
漂へる手袋のある運河かな
蟷螂やゆらぎながらも萩の上
夕月に甚だ長し馭者の鞭
まつすぐの道に出でけり秋の暮
秋風やくわらんと鳴りし幡(ばん)の鈴
また一人遠くの蘆を刈りはじむ
蘆刈の天を仰いで梳(くしけづ)る
漂へる手袋のある運河かな
高野素十俳句集3
雪片 野花
春
流れきて次の屯(たむろ)へ蝌蚪一つ
田打女(たうちめ)の鍬揃ふとき蝶流れ
摘草の人また立ちて歩きけり
野に出れば人みなやさし桃の花
わが影に畦を塗りつけぬりつけて
親馬は梳(くしけづ)らるゝ仔馬跳び
花吹雪吹き包みたる一木かな
空をゆく一とかたまりの花吹雪
春
流れきて次の屯(たむろ)へ蝌蚪一つ
田打女(たうちめ)の鍬揃ふとき蝶流れ
摘草の人また立ちて歩きけり
野に出れば人みなやさし桃の花
わが影に畦を塗りつけぬりつけて
親馬は梳(くしけづ)らるゝ仔馬跳び
花吹雪吹き包みたる一木かな
空をゆく一とかたまりの花吹雪
高野素十俳句集4
夏
夏山に向ひて歩く庭のうち
早乙女の夕べの水にちらばりて
たべ飽きてとんとん歩く鴉の子
とんとんと歩く小鴉名はヤコブ
打水や萩より落ちし子かまきり
代馬の泥の鞭あと一二本
夜の色に沈み行くなり大牡丹
玉解いて即ち高き芭蕉かな
朝顔の雙葉のどこか濡れゐたる
夏山に向ひて歩く庭のうち
早乙女の夕べの水にちらばりて
たべ飽きてとんとん歩く鴉の子
とんとんと歩く小鴉名はヤコブ
打水や萩より落ちし子かまきり
代馬の泥の鞭あと一二本
夜の色に沈み行くなり大牡丹
玉解いて即ち高き芭蕉かな
朝顔の雙葉のどこか濡れゐたる
高野素十俳句集5
秋
船員と吹く口笛や秋の晴
三日月の沈む弥彦の裏は海
生涯にまはり燈籠の句一つ
少年に鬼灯(ほほづき)くるゝ少女かな
女の子七夕竹をうち擔(かつ)ぎ
雁(かりがね)や牛ひき出して乗る男
雁の聲のしばらく空に満ち
食べてゐる牛の口より蓼(たで)の花
稲運び飽きし子稲架(はさ)にぶら下がる
草じらみつけて女は楽しけれ
船員と吹く口笛や秋の晴
三日月の沈む弥彦の裏は海
生涯にまはり燈籠の句一つ
少年に鬼灯(ほほづき)くるゝ少女かな
女の子七夕竹をうち擔(かつ)ぎ
雁(かりがね)や牛ひき出して乗る男
雁の聲のしばらく空に満ち
食べてゐる牛の口より蓼(たで)の花
稲運び飽きし子稲架(はさ)にぶら下がる
草じらみつけて女は楽しけれ