<> 「たのしみは 春夏秋冬季語に逢ひ 詩歌管絃游びゐるとき」 @歌童 金子兜太

金子兜太俳句集1

少年

旅終る暁の灯を路地路地に

少年の放心葱畑に陽が赤い

わがいけばどんぐり光触れ合えり

閑古鳴く女さらさらと帯を巻く

鳥渡る二階に子あやす人見えて


わが歌のふと蜩に和したりき

小さく赤い蜘蛛手を這えり糸曳きて

喇叭鳴るよ夏潮の紋条相重なり

霧の夜のわが身に近く馬歩む

マッチ箱に玉虫入れて都の子

金子兜太俳句集2

嫁ぐ妹と蛙田を越え鉄路越え

階下の人も寝る向き同じ蛙の夜

なめくじり寂光を負い鶏のそば

曼珠沙華どれも腹出し秩父の子

山脈のひと隅あかし蚕のねむり


鍵束や冬の蠅死ぬ横向きに

炭焼の貌の冬ざれ岩よりも

枯山に煙ろう入日首振る馬

木曽のなあ木曽の炭馬並び糞る

落椿蟻うつむきて近より来

金子兜太俳句集3

首細き子がみる旱の貨車の群

愛欲るや黄の朝焼に犬佇てり

蟹と共に海の入日へ向きて歩む

後ろより編隊機過ぐ鴨が過ぐ

犬は海を少年はマンゴーの森を見る


流れ星蚊帳を刺すかに流れけり

魚雷の丸胴蜥蜴這い廻りて去りぬ

急ぎ且首あぐる蜥蜴吾も独り

壁に身をする馬や雪山眼のあたり

孤独のあかんぼちんぽこさらし裸麦

金子兜太俳句集4

霜の砂原流木に石置く人の子誰

裏に清流この家の人等麦踏みへ

秋灯洩れるところ犬過ぎ赤児眠る

蝶のように綿入れの手振り吾子育つ

子らの絵に真赤な太陽吹雪の街


異質のごと新しき松かさ草に正座

熊蜂とべど沼の青色を抜けきれず

陋屋に食われし西瓜両端立て

営み始まる堆肥の傍に卵まろび

歌いまくる炭子の唄に銀漢伸ぶ

金子兜太俳句集5

霧笛を入れて炬燵一個の部屋を鎖す

雨の踊子毛布に眠る手を出して

白服にてゆるく橋越す思春期らし

両の手に青葉掴みて怜悧な子

向き合う二階の夕餉たがいに秋灯満たし


滑り台に少年現れ塔と並ぶ

原爆許すまじ蟹かつかつと瓦礫あゆむ

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