高柳重信俳句集1
前略十年
山に来て蛇を恐れぬ少女なりき
不器用に柿むきをればワルツ終る
春暁に泣きぬれてゐる理想かな
煩雑な枝のどこかの油蝉
春光やキリン蕩児に似て歩む
鶏頭の赤きことのみ言へるかな
春来たる下手な口笛吹かんとす
あ・あ・あ・とレコードとまる啄木忌
犬抱けば犬の眼にある夏の雲
浅草に春愁捨ててしまはうか
山に来て蛇を恐れぬ少女なりき
不器用に柿むきをればワルツ終る
春暁に泣きぬれてゐる理想かな
煩雑な枝のどこかの油蝉
春光やキリン蕩児に似て歩む
鶏頭の赤きことのみ言へるかな
春来たる下手な口笛吹かんとす
あ・あ・あ・とレコードとまる啄木忌
犬抱けば犬の眼にある夏の雲
浅草に春愁捨ててしまはうか
高柳重信俳句集2
レモン水飲むよ夏帽真深にし
頬杖や一本の罌粟眼にあふれ
蚊柱を截りて遮断機おりにけり
七月の塀の落書き「アキコノバカ」
頬に触れ夏草肌のごと熱し
凩や我が掌のうらおもて
友はみな征けりとおもふ懐手
北風や涙がつくる燭の虹
われら永く悪友たらいき春火鉢
日本の夜霧の中の懐手
頬杖や一本の罌粟眼にあふれ
蚊柱を截りて遮断機おりにけり
七月の塀の落書き「アキコノバカ」
頬に触れ夏草肌のごと熱し
凩や我が掌のうらおもて
友はみな征けりとおもふ懐手
北風や涙がつくる燭の虹
われら永く悪友たらいき春火鉢
日本の夜霧の中の懐手
高柳重信俳句集3
遅き月のぼりてくるや山河あり
夏痩せや私小説めく二日酔
走り去る不意の別れの煙草の火
恋人のああ何の瞳ぞ薔薇映し
ゴッホの絲杉 東風に逆立つ我が蓬髪
ゆけどゆけどゆけども虹をくつり得ず
散策のピリオドをうつ枯木の掌
来られる鯉 片目が何も見てゐない
夜よ せめて 一点の鐘打ち鳴らせ
夏痩せや私小説めく二日酔
走り去る不意の別れの煙草の火
恋人のああ何の瞳ぞ薔薇映し
ゴッホの絲杉 東風に逆立つ我が蓬髪
ゆけどゆけどゆけども虹をくつり得ず
散策のピリオドをうつ枯木の掌
来られる鯉 片目が何も見てゐない
夜よ せめて 一点の鐘打ち鳴らせ
高柳重信俳句集4
山川蟬夫句集
二月尽く墓の頭を撫でながら
春暁は荒れたるよ富澤赤黄男の忌
樽を転がす子供の遊び春の野に
長塀の端から端まで真春の坂
日当りを鶏が跳ぶ三鬼の忌
丘の上に並びて終る野遊びよ
沼ほとり春も闌けたる穂絮かな
対岸に落日ゆらぐ揚雲雀
蛙田や帰りそびれし肝試し
遠雷やいま吊鐘も声を出す
二月尽く墓の頭を撫でながら
春暁は荒れたるよ富澤赤黄男の忌
樽を転がす子供の遊び春の野に
長塀の端から端まで真春の坂
日当りを鶏が跳ぶ三鬼の忌
丘の上に並びて終る野遊びよ
沼ほとり春も闌けたる穂絮かな
対岸に落日ゆらぐ揚雲雀
蛙田や帰りそびれし肝試し
遠雷やいま吊鐘も声を出す
高柳重信俳句集5
向日葵の頭に下りる雀かな
遠くにて水の輝く晩夏かな
秋来ぬと海の荒闇ひびくかな
顔ふりむきし雄鶏や稲光
秋山の大滝の面に照る日かな
葬列や数人あふぐ渡り鳥
藁塚が見えて目のふち痒きかな
月明の山のかたちの秋の声
わが顔あり野分のあとの凩に
石に彫り野に捨てておく顔ひとつ
遠くにて水の輝く晩夏かな
秋来ぬと海の荒闇ひびくかな
顔ふりむきし雄鶏や稲光
秋山の大滝の面に照る日かな
葬列や数人あふぐ渡り鳥
藁塚が見えて目のふち痒きかな
月明の山のかたちの秋の声
わが顔あり野分のあとの凩に
石に彫り野に捨てておく顔ひとつ