永田耕衣俳句集1
加古・傲霜
ほうたるを放ちし庭の明けにけり
みの蟲をかたちづくりぬ夕風は
蝌蚪一つ唇ひろぐればぼたん散る
寒鴉歩けば動く景色かな
人ごみに蝶の生るる彼岸かな
牛飛んでひびく堤や櫻月
夏鹿の面を横に歩きけり
母は子を叱つてゐるが鳰すすむ
手にもちて春扇とほき思ひかな
せせらぎの小石うきたち祭来ぬ
ほうたるを放ちし庭の明けにけり
みの蟲をかたちづくりぬ夕風は
蝌蚪一つ唇ひろぐればぼたん散る
寒鴉歩けば動く景色かな
人ごみに蝶の生るる彼岸かな
牛飛んでひびく堤や櫻月
夏鹿の面を横に歩きけり
母は子を叱つてゐるが鳰すすむ
手にもちて春扇とほき思ひかな
せせらぎの小石うきたち祭来ぬ
永田耕衣俳句集3
興奪鈔
春の鳥双眼鏡に一つかな
冷房を出て黒松にかこまれぬ
棘の露ひとのまなこの移り行く
七夕や風にひかりて男袖
旅の者過ぎ去り行くや貝割菜
瓜苗やたたみてうすきかたみわけ
麥買へば蠅の縞目の見ゆるかな
月明の畝あそばせてありしかな
春の鳥双眼鏡に一つかな
冷房を出て黒松にかこまれぬ
棘の露ひとのまなこの移り行く
七夕や風にひかりて男袖
旅の者過ぎ去り行くや貝割菜
瓜苗やたたみてうすきかたみわけ
麥買へば蠅の縞目の見ゆるかな
月明の畝あそばせてありしかな
永田耕衣俳句集4
驢鳴集
霜解のとろとろと皆何處へ行く
夢の世に葱を作りて寂しさよ
冬の沼遠し遠しと猫行くや
戀猫の戀する猫で押し通す
行く水の横に衣を更へにけり
赤き蚤柩の前を歩きをり
かたつむりつるめば肉の食い入るや
他の蟹を如何ともせず蟹暮るる
行けど行けど一頭の牛に他ならず
行く牛の月に消え入る力かな
霜解のとろとろと皆何處へ行く
夢の世に葱を作りて寂しさよ
冬の沼遠し遠しと猫行くや
戀猫の戀する猫で押し通す
行く水の横に衣を更へにけり
赤き蚤柩の前を歩きをり
かたつむりつるめば肉の食い入るや
他の蟹を如何ともせず蟹暮るる
行けど行けど一頭の牛に他ならず
行く牛の月に消え入る力かな
永田耕衣俳句集5
或る高さ以下を自由に黒揚羽
緑蔭のわが入るとき動くなり
さはらねば赤蜂美しき故郷
老母死す
母の死や枝の先まで梅の花
夏蜜柑いづこも遠く思はるる
物として我を夕焼染にけり
西へ行く途中の雲の影蟹に
東から西へ穴惑ひ棒の如し
綿蟲や夢は今後に日は西に
雁の夜や鼻を先立て散歩する
緑蔭のわが入るとき動くなり
さはらねば赤蜂美しき故郷
老母死す
母の死や枝の先まで梅の花
夏蜜柑いづこも遠く思はるる
物として我を夕焼染にけり
西へ行く途中の雲の影蟹に
東から西へ穴惑ひ棒の如し
綿蟲や夢は今後に日は西に
雁の夜や鼻を先立て散歩する