<> 「たのしみは 春夏秋冬季語に逢ひ 詩歌管絃游びゐるとき」 @歌童 西東三鬼

西東三鬼俳句集1

 旗

ほそき靴貝殻をふむ音とあゆむ

水枕ガバリと寒い海がある

 びつことなりぬ
春夕べあまたのびつこ跳ねゆけり

黒馬に映るけしきの海が鳴る

右の眼に大河左の眼に騎兵


白馬を少女穢れて下りにけむ

手品師の指いきいきと地下の街

銅像の裏には青き童がゐたり

青き朝少年とほき城をみる

梅を嚙む少年の耳透きとほる

西東三鬼俳句集2

算術の少年しのび泣けり夏

緑陰に三人の老婆わらへりき

夏暁の子供よ地に馬を描き

 鳳作の死
友はけさ死せり野良犬草を嚙む

道化師や大いに笑ふ馬より落ち


滑走路黄なり冬海につきあたり

操縦士犬と枯れ草馳せまろぶ

空港の硝子の部屋につめたき手

冬草に黒きステッキ挿し憩ふ

絶壁に寒き男女の顔ならび

西東三鬼俳句集3

昇降機しづかに雷の夜を昇る

兵隊がゆくまつ黒い汽車に乗り

機の車輪冬海の天に廻り止む

滑走輪冬山の天になほ廻る

夜の湖あゝ白い手に燐寸の火


機関銃熱キ蛇腹ヲ震ハスル

機関銃地ニ雷管ヲ食ヒチラス

機関銃眉間ニ赤キ花ガ咲ク

機関銃腹ニ糞便カタクナル

機関銃闇ノ弾道香ヲ放ツ

西東三鬼俳句集4

悉く地べたに膝を抱けり捕虜

逆襲ノ女兵士ヲ狙ヒ打テ!

パラシウト天地ノ機銃フト黙る

戦友よ泥濘の顔泣き笑ふ

塹壕を這ふ昆虫を手にのせる


青き湖畔捕虜凸凹と地に眠る

絶叫する高度一万の若い戦死

風の闇馬の雙眼にある銃火

軍旗去り盲馬地平に吹かれ佇つ

西東三鬼俳句集5

 空港

氷下魚釣るあなた馬橇の影ゆくに

灯がともる厦(いへ)の表情昏れ寒く

みぞる夜の孤りの鼠木を齧じる

みぞる夜の鏡の底に風吹くか

青の朝まばゆき虫と地に遊ぶ


北風に群衆が叫ぶ口赤し

女哭く冬の太陽を足元に

冬園に哭けり十個の爪光る

枯園に一滴涙の光り落つ

馬黒く白く北風かぎりなし

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