<> 「たのしみは 春夏秋冬季語に逢ひ 詩歌管絃游びゐるとき」 @歌童 中村草田男

草田男俳句集1

長子

貝寄風に乗りて帰郷の船迅し

夕桜あの家この家に琴鳴りて

そら豆の花の黒き目数知れず

ゆるさとの春暁にある厠かな

蝸牛の殻まじる土耕して


町空のつばくらめのみ新しや

春草は足の短き犬に萌ゆ

とらへたる蝶の足がきのにほひかな

つばくらめ斯くまで竝ぶことのあり

ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道

草田男俳句集2

菜の花や夕映えの顔物を云ふ

大学生おほかた貧し雁帰る

校塔に鳩多き日や卒業す

人々に四つ角ひろき薄暑かな

たかんなの影は竹より濃かりけり


筍の切先高し星生る

田を植ゑるしづかな音へ出でにけり

家を出て手を引かれたる祭かな

あかるさや蝸牛かたくかたくねむる

蟇蛙長子家去る由もなし

草田男俳句集3

暑き日の仔犬の舌の薄きこと

子羊にチヨンと打ち鳴くきりぎりす

手の薔薇に蜂来れば我王の如し

玫魂や今も沖には未来あり

六月の氷菓一盞の別れかな


香水の香ぞ鉄壁をなせりける

蚊の声のひそかなるとき悔いにけり

思ひ出も金魚の水も蒼を帯びぬ

夏草や野島ケ崎は波ばかり

秋の航一大紺円盤の中

草田男俳句集4

曼珠沙華落暉も蕊をひろげけり

白墨の手を洗ひをる野分かな

雁渡る菓子と煙草を買ひに出て

鴨渡る鍵も小さき旅カバン

蚯蚓なくあたりへこごみあるきする


灯のあかり唖のいとどの丸き背に

蜻蛉行くうしろ姿の大きさよ

子供居りしばらく行けば懸巣鳥居り

貌見えてきて行き違ふ秋の暮

冬の水一枝の影も欺かず

草田男俳句集5

木葉髪文芸永く欺きぬ

冬すでに路標にまがふ墓一基

あたたかき十一月もすみにけり

降る雪や明治や遠くなりにけり

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