飯田龍太俳句集1
百戸の谿
寒の蕗水の日向を流れけり
つみとりてまことにかるき唐辛子
春の鳶寄りわかれては高みつつ
翁草銀の絮かな祭笛
夏火鉢つめたくふれてゐたりけり
兄逝くや空の感情日日に冬
短日の鷗のひかりに重き海
泳ぎ子の五月の肌近く過ぐ
咲きいでし花の単色夏に入る
いつまでも暮天のひかり冷し馬
寒の蕗水の日向を流れけり
つみとりてまことにかるき唐辛子
春の鳶寄りわかれては高みつつ
翁草銀の絮かな祭笛
夏火鉢つめたくふれてゐたりけり
兄逝くや空の感情日日に冬
短日の鷗のひかりに重き海
泳ぎ子の五月の肌近く過ぐ
咲きいでし花の単色夏に入る
いつまでも暮天のひかり冷し馬
飯田龍太俳句集2
黒揚羽九月の樹間透きとほり
外風呂へ月下の肌ひるがへす
鶏毮るべく冬川に出でにけり
母が割るかすかながらも林檎の音
雁鳴くとびしびし飛ばす夜の爪
近径の夜風と虫につつまれて
紺絣春月重く出でしかな
春暁のはるけくねむる嶺のかず
抱く吾子も梅雨の重みといふべしや
ひとり居の胸に置く手も露の冷え
外風呂へ月下の肌ひるがへす
鶏毮るべく冬川に出でにけり
母が割るかすかながらも林檎の音
雁鳴くとびしびし飛ばす夜の爪
近径の夜風と虫につつまれて
紺絣春月重く出でしかな
春暁のはるけくねむる嶺のかず
抱く吾子も梅雨の重みといふべしや
ひとり居の胸に置く手も露の冷え
飯田龍太俳句集3
わが息のわが身に通ひ渡り鳥
満月に嬰児を泣かせ通りたる
凍蝶や畑のどこかに子守唄
ゆく年の火のいきいきと子を照らす
空若く燃え春月を迎へけり
満月のゆたかに近し花いちご
春めくと雲に舞ふ陽に旅つげり
春雷の闇より椎のたちさわぐ
熱の子に早鐘打つて遠蛙
花栗のちからかぎりに夜もにほふ
満月に嬰児を泣かせ通りたる
凍蝶や畑のどこかに子守唄
ゆく年の火のいきいきと子を照らす
空若く燃え春月を迎へけり
満月のゆたかに近し花いちご
春めくと雲に舞ふ陽に旅つげり
春雷の闇より椎のたちさわぐ
熱の子に早鐘打つて遠蛙
花栗のちからかぎりに夜もにほふ
飯田龍太俳句集4
梅雨月やでうでうとして蜂の巣に
蛍火や少年の肌湯の中に
炎暑このしづけさ雀鳴くことも
夏鶯こゑの貫く睡たき空
大木の肌も真昼やきりぎりす
露草も露のちからの花ひらく
鰯雲日かげは水の音迅く
露の村いきてかがやく曼珠沙華
駒ヶ岳秋の総体透きてみゆ
春すでに高嶺未婚のつばくらめ
蛍火や少年の肌湯の中に
炎暑このしづけさ雀鳴くことも
夏鶯こゑの貫く睡たき空
大木の肌も真昼やきりぎりす
露草も露のちからの花ひらく
鰯雲日かげは水の音迅く
露の村いきてかがやく曼珠沙華
駒ヶ岳秋の総体透きてみゆ
春すでに高嶺未婚のつばくらめ
飯田龍太俳句集5
いきいきと三月生まる雲の奥
満月に目をみひらいて花こぶし
山つつじ照る只中に田を墾く
きんぽうげ川波霧を押しひらく
炎天の谿深く舞ふ一葉あり
白樺の雨につばめの巣がにほふ
海にゆく手を日盛りの窓に出す
炎天の巌の裸子やはらかし
青竹が熟柿のどれにでも届く
山河はや冬かがやきて位に即けり
満月に目をみひらいて花こぶし
山つつじ照る只中に田を墾く
きんぽうげ川波霧を押しひらく
炎天の谿深く舞ふ一葉あり
白樺の雨につばめの巣がにほふ
海にゆく手を日盛りの窓に出す
炎天の巌の裸子やはらかし
青竹が熟柿のどれにでも届く
山河はや冬かがやきて位に即けり