<> 「たのしみは 春夏秋冬季語に逢ひ 詩歌管絃游びゐるとき」 @歌童 森澄雄

森澄雄俳句集1

雪櫟

冬の日の海に没る音をきかんとす

黒松の一幹迫る寒燈下

大学の常盤木の冬ひき緊り

帽深く瞳に雪ふれてなつかしや

夜の松の野分や瓶の水を飲む


黒松の幹の粗さや寒に入る

白地着て夕ぐれの香の来てをりぬ

夏川の昏れて青竹を牛負ひ来

焦土の辺晩涼は胸のあたりに来

蟷螂の立木と思ふ吾に寄る

森澄雄俳句集2

野分の猫水呑んで舌打鳴らす

秋夕映え真顔ばかりが揺られをり

二月の雪まへ澄みうしろかぎろへり

野の井戸の下萌に着くポンプの柄

閑古鳥子を顎まで湯にひたす


青麦や湯の香りする子を抱いて

樹々そよぐ颯々の夏いさぎよし

点燈す手の高さより雪降りをり

七輪あふぐ女の尻を枯野に向け

あかあかと萱と墓透く冬没日

森澄雄俳句集3

早春の星のやさしさ雪後の天

花の前雨みづみづし小豆煮て

満目の萌ゆるばかりを濯ぎをり

米洗ふそを末枯が囲みだす

磨汁をこぼす白息流しをり


炭火落せし後頭を年過ぎゆきぬ

夜明けつつなほ雪嶺は夜の方

麦青む信濃いづくも水走り

青萱に赤牛の背と煙草の香

満月や白桃の辺はみづみづし

森澄雄俳句集4

梨喰うて口さむざむと日本海

川音す雪代岩魚皿にのせ

緋桃咲き入学の子の道草す

獅子舞の獅子さげて畑急ぐなり

新緑に濯ぎて何を忘るるか


秋めきて白桃を喰ふ横臥せに

雨夜の蟲子はうつぶせに寝てしまふ

吾子三人頭黒く寝ねぬ蟋蟀よ

除夜の妻白鳥のごと湯浴みをり

負籠負ひ来ぬ冬大根と赤ん坊と

雪上につながれし馬も車窓過ぐ

森澄雄俳句集5

 花眼

水あふれゐて啓蟄の最上川

麦秋の子がちんぼこを可愛がる

蛞蝓梅雨の朝焼そこにをり

鳴門見て讃岐麦秋渦をなす

頬ずりの父を嫌がる青田へ出て


蹄鉄をてつちんと鍛つ桑照りに

磧にて白桃むけば水過ぎゆく

顎張つて枯山色に山の牛

一つづつ食めば年逝くピーナッツ

櫻桃一皿夜蛙のこゑうちひびく

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