<> 「たのしみは 春夏秋冬季語に逢ひ 詩歌管絃游びゐるとき」 @歌童 加藤楸邨

加藤楸邨俳句集40

 怒涛

初鶏に藍甕の夜の深かりき

蛾がねむる飢餓死碑文の削りあと

ほろほろ鳥草の穂綿とあそびをり

煎餅を噛むわが音の秋の暮

吹越やきらりきらりと日の面


巣燕見るおしくらまんぢうの押され役

春の蟻つやつやと貌拭くさます

土筆一本咥へてゆけば毛馬少女

糸遊の消えてまたたつ墓の肩

蛙出て雪に目を張る与謝ごほり

加藤楸邨俳句集41

陽炎の猪垣を出て家鴨ども

白貝を噛むや海底の砂沙羅と

雲ばかり石ばかり春の蟻ばかり

陽炎や円空は何故彫りつづけ

優曇華はこころ尖りしとき見るな


犬蓼と背くらべしをり郵便夫

葱の香は直進し蘭の香はつつむ

大根刻む音のふと止む何思ふ

客去れば笹鳴とわが時間かな

黄塵や淡き影持つ雀ども

加藤楸邨俳句集42

蟬の音の棒の折れたるごとく止む

一本の杭がたちまち法師蝉

寒鰤の無念の目口見とれをり

牡蠣の身の晦さを舌が感じをり

笹鳴を聴きゐるらしき妻の黙


楢の梢よりブランデンブルグの青あらし

泰山木の花ありつたけ崩壊秘め

犬の背に去られて我に赤とんぼ

猫が子を咥へてあるく豪雨かな

柿噛むと冷たき顔をまづつくる

加藤楸邨俳句集43

いつせいに目を立つる蟹十三夜

だんだんにひと黙りがち虎落笛

紙子着しさまざまな音うまれゆく

 七月十七日、水原秋櫻子先生急逝
四位迫りきつつ音なきいなびかり

満月のさびしきこゑす籠の軍鶏


何ぞたのしげ噴き初めといふ鍋釜ども

唐黍を噛みかけてもう泣けぬらし

牡蠣の口もし開かば月さし入らむ

かの日見し蝌蚪いまつくづくと青蛙

五月牧畑(まきはた)馬に怒濤はのびあがり

加藤楸邨俳句集44

牡丹の奥に怒濤怒濤の奥に牡丹

月下美人大きな声は出さず見る

女手の逆手づかみに羽抜鳥

ふうせんかづら最後まで揺れ颱風過

声のあとなる闇が揺れゆく渡り鳥


ふくろふに真紅の手毬つかれをり

木瓜の門くろねこが入り少女出づ

思ひ極まるところにいつも白牡丹

牡丹一花この上かつて火が立ちき

天の川わたるお多福豆一列

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