<> 「たのしみは 春夏秋冬季語に逢ひ 詩歌管絃游びゐるとき」 @歌童 水原秋櫻子

秋櫻子俳句集1

 葛飾

なく雲雀松風立ちて落ちにけむ

来し方や馬酔木咲く野の日のひかり

蟇ないて唐招提寺春いづこ

或門のくづれて居るに馬酔木かな

馬酔木咲く金堂の扉にわが触れぬ


金色の仏ぞおはす蕨かな

梨咲くと葛飾の野はとの曇り

連翹や真間の里人垣を結はず

葛飾や桃の籬も水田べり

鋤牛に水田光りて際しらず

秋櫻子俳句集2

生ひ出でてきのふけふなる水草かな

畦焼に多摩の横山暮れ去んぬ

とぶ鮒を紫雲英の中に押さへけり

鶯や前山いよゝ雨の中

鞦韆や春の山彦ほしいまゝ


高嶺星蚕飼の村は寝しづまり

桑の芽や雪嶺のぞく峡の奥

天平のをとめぞ立てる雛かな

山焼く火檜原に来ればまのあたり

春雷や暗き厨の桜鯛

秋櫻子俳句集3

石鹸玉木の間をすぐるうすうすと

真菰刈る童に鳰は水走り

葭切のをちの鋭声や朝ぐもり

夏帽に湖光はてなくひらけたり

葛飾や浮葉のしるきひとの門


四ツ手網見る四五人と羽抜鳥

水無月や青嶺つゞける桑のはて

雷鳥もわれも吹き来し霧の中

萱わけて馬の来てをる泉かな

山魚釣り晩涼の火を焚きゐたり

秋櫻子俳句集4

遠泳や高浪越ゆる一の列

日焼顔見合ひてうまし氷水

夜の雲に噴煙うつる新樹かな

羽抜鳥駈けて山馬車軋り出づ

桑の葉の照るに堪へゆく帰省かな


馭者若し麦笛嚙んで来りけり

姿見に見ゆる風鈴鳴りにけり

睡たさのうなじおとなし天瓜粉

鯔はねて河面暗し蚊喰鳥

駅高く青葉の峡となりにけり

秋櫻子俳句集5

コスモスを離れし蝶に谿深し

啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々

雲海や鷹のまひゐる嶺ひとつ

秋耕やあらはの墓に手向花

葛飾や水漬きながらも早稲の秋


蓮の中羽搏つものある良夜かな

新涼の浪ひるがへり蜑が窓

鯊釣や不二暮れそめて手を洗ふ

馬追や露の玻璃戸に真逆様

夏やすみすぎしこゝろや鳳仙花

歌童サイト内 検索フォーム
カテゴリ
カテゴリ別記事一覧
株主優待券