永井荷風俳句集1
墨も濃くまづ元日の日記かな
まだ咲かぬ梅をながめて一人かな
永き日やつばたれ下がる古帽子
しのび音も泥の中なる田螺(たにし)かな
うぐひすや障子にうつる水の紋(あや)
色町やまひるしづかに猫の恋
門の灯や昼もそのまゝ糸柳
行春やゆるむ鼻緒の日和(ひより)下駄
明やすき夜や土蔵の白き壁
百合の香や人待つ門の薄月夜
まだ咲かぬ梅をながめて一人かな
永き日やつばたれ下がる古帽子
しのび音も泥の中なる田螺(たにし)かな
うぐひすや障子にうつる水の紋(あや)
色町やまひるしづかに猫の恋
門の灯や昼もそのまゝ糸柳
行春やゆるむ鼻緒の日和(ひより)下駄
明やすき夜や土蔵の白き壁
百合の香や人待つ門の薄月夜
永井荷風俳句集2
涼風を腹一ぱいの仁王かな
五月雨の或夜は秋のこゝろ哉
気に入らぬ髪結直すあつさ哉
川風も秋となりけり釣の糸
象も耳立てゝ聞くかや秋の風
粉薬(こぐすり)やあふむく口に秋の風
極楽に行く人送る花野かな
秋雨や夕餉の箸の手くらがり
雨やんで庭しづかなり秋の蝶
湯帰りや灯ともしころの雪もよひ
五月雨の或夜は秋のこゝろ哉
気に入らぬ髪結直すあつさ哉
川風も秋となりけり釣の糸
象も耳立てゝ聞くかや秋の風
粉薬(こぐすり)やあふむく口に秋の風
極楽に行く人送る花野かな
秋雨や夕餉の箸の手くらがり
雨やんで庭しづかなり秋の蝶
湯帰りや灯ともしころの雪もよひ